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YOASOBI・ずっと真夜中でいいのに。・ヨルシカ(夜好性/夜行性/夜系)と関連ボカロ系アーティストのおすすめ曲を紹介して特徴を分析!(ACAね・Ayase・初音ミク・100回嘔吐・三月のパンタシア・supercell・n-buna・やなぎなぎ)|J-POP


2020年頃、10代や20代を中心に爆発的な人気を誇る音楽ユニット〈YOASOBI〉・〈ずっと真夜中でいいのに。〉・〈ヨルシカ〉の愛聴者が「夜好性」と呼ばれ、それらによる楽曲が「夜系」音楽として分類されるようになった。ユニット名に「夜」という語が含まれているからだ。夜や日陰を連想させるエモーティブな歌詞や曲調やアニメMVを共通項とするという点では、この分類は妥当かもしれない。

だが、もっと根源的な類似点がある。〈YOASOBI〉の編曲・作曲担当〈Ayase〉、〈ずっと真夜中でいいのに。〉のボーカル・作曲・作詞の〈ACAね〉の編曲協力者〈100回嘔吐〉、〈ヨルシカ〉の編曲・作曲担当〈n-buna〉は皆、VOCALOIDプロデューサー(通称ボカロP)だということだ。つまり、彼らは、音声合成ソフトウェアを用いて、ストックされた声のデータ(〈初音ミク〉など音源)を合成あるいは編集し、コンピュータに「歌わせて」、自分で編曲・作曲した伴奏を合わせる。彼らは、歌い手への人脈やギャラやレコーディング費用などが必要ないため、マイペースで、能力を余すことなく発揮し、音楽制作をしてきたという経歴がある。その点で類似してるのだ。本記事では、人気のボーカリストではなく、VOCALOIDプロデューサーとしてキャリアを積んだ編曲者・作曲者である〈Ayase〉・〈100回嘔吐〉・〈n-buna〉にスポットライトをあてて、「夜好性系」ないし「夜系」音楽と関連音楽を紹介したい。


YOASOBI / Ayase

1. YOASOBI「群青」

ボーカル幾田りらの雑味がなく柔らかいのに芯がある声や、彼女がYOASOBI結成よりも前から属している〈ぷらそにか〉メンバーのコーラスによって、Ayaseのメロディーメーカーやキーボーディストとしての才能がリスナーが一度に受け止めることができないほど溢れ出ている。リピート必須の曲。アルバム「THE BOOK」に収録。

2. YOASOBI「夜に駆ける」

YOASOBIの配信限定ファーストシングル。これが、香港やシンガポールをはじめアジア全域での圧倒的人気だけでなく、全世界に訴求力を持つきっかけとなった。「夜系」を代表する曲。打ち込みキーボードが気持ちいい。アルバム「THE BOOK」に収録。

Appendix A. Rainych ft A V I A N D「夜に駆ける」

インドネシアのYouTuberであるRainychによるカバー。

ちなみに、次の記事でもRainychについて触れているので参照して欲しい。

3. 初音ミク「Fiction Blue」

YOASOBIとしてデビューする前のAyaseの代表曲のうちのひとつ。YOASOBIのスタイルの片鱗が見える哀愁のある曲調だ。やはりAyaseによるアレンジメントにおいて特徴的なのは、快活な打ち込みキーボードだ。EP「幽霊東京」に収録

4. 初音ミク「シネマ 」

YOASOBIとしてデビューし1枚目のアルバムをリリースした後のAyaseの代表曲のうちのひとつ。比較的平坦なメロディラインとドラムを、テクニカルなオブリガートと構成や編曲でドラマティックに演出してバランスをとるAyaseの才能が光る。


ずっと真夜中でいいのに。 / ACAね / 100回嘔吐

5. ずっと真夜中でいいのに。「胸の煙」

作曲は一人ユニット〈ずっと真夜中でいいのに。〉当人の〈ACAね〉により、編曲は協力者の〈100回嘔吐〉による。ボーカルの感傷的な歌唱も、急かすリズム隊も、ストリングスのオーケストレーションも、最大限にドラマチックになっている。2枚目のアルバム「ぐされ」の1曲目を飾り、後続の曲に引き込む、オーディエンスを引き付けて離さない曲だ。

6. ずっと真夜中でいいのに。「お勉強しといてよ」

同じく、作曲は〈ずっと真夜中でいいのに。〉の〈ACAね〉、編曲は〈100回嘔吐〉。メロディアスなボーカル、躍動的なベース、間奏のピアノソロなど、すべてエモーティブな性格を持っていて、それで全体のストーリーを構成している曲だ。アルバム「ぐされ」に収録。

なお、次の記事では〈ずっと真夜中でいいのに。〉に焦点を絞って分析しているので、参照してほしい。

Appendix B. 100回嘔吐「NANIMONOにも成れないよ」

〈100回嘔吐〉によるボーカル、編曲、作曲、作詞。衝撃的なアーティスト名や刺のある歌詞とは裏腹な、中性的で優しげなボーカルと楽観的なアレンジメントに驚かされる。ソロイスト〈ずっと真夜中でいいのに。〉の〈ACAね〉の強大な人気を支えるだけのキャッチーさを備えている。彼はどのような心持ちでこのような二面性を表現しているのだろうか。


ヨルシカ / n-buna

7. ヨルシカ「だから僕は音楽を辞めた」

躍動感があるというよりも、1小節1小節噛み締めるような歌唱とそれにきっちりと寄り添う〈ヨルシカ〉のバンドサウンドは、国内外問わず、J-POPファンをまるごと取り込むポテンシャルを持っている。「だから僕は音楽を辞めた」は、〈ヨルシカ〉の〈n-buna〉によって作曲された、〈ヨルシカ〉の曲のうち最もとっつきやすいもののひとつだ。

Appendix C. 三月のパンタシア「青春なんていらないわ」

〈三月のパンタシア〉の曲。上と同じく〈n-buna〉によって編曲・作曲・作詞され、〈三月のパンタシア〉に提供されたものだ。やはり〈n-buna〉特有のノスタルジックさが漂う。アルバム「ガールズブルー・ハッピーサッド」に収録。


三月のパンタシア / supercell

8. 三月のパンタシア「三月がずっと続けばいい」

冒頭から〈YOASOBI〉・〈ずっと真夜中でいいのに。〉・〈ヨルシカ〉の楽曲を紹介してきたが、ここからは、それらを愛聴する「夜好性」リスナーが好むだろう類似の楽曲について触れたい。本曲は直前に紹介した〈三月のパンタシア〉の曲。編曲・作曲・作詞は〈n-buna〉ではなくVOCALOIDプロデューサー〈kemu〉こと堀江晶太による。少々ナイーブな歌唱法と、ドラムの静寂を利用することで、青年期の心のナーバスさを上手く表象している。アルバム「ガールズブルー・ハッピーサッド」に収録。

9. やなぎなぎ「メルト」

草分け的VOCALOIDプロデューサーである〈supercell〉の〈ryo〉によるVOCALOID界不朽の名作「メルト」の発表以来、10年越しのセルフミックスがこれだ。

10. Ann, gaku「#Love」

夜系ブームに繋がるVOCALOIDブームの火付け役〈supercell〉が10年の経験を積んで発表した「#Love feat. Ann, gaku」は、短絡的な決まり文句に聞こえかねない「エモい」という言葉を突き詰めに突き詰めて純化させたような空気を醸す。


本記事の前半では、〈YOASOBI〉・〈ずっと真夜中でいいのに。〉・〈ヨルシカ〉の夜系楽曲を、後半では「夜好性」リスナーが好みそうな同種の楽曲を紹介した。2010年頃のようなアンダーグラウンドな存在だったVOCALOIDプロデューサーたちは、時代をつくって特に若いリスナーを虜にし、メインストリームを占領しにかかっている。

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