City Pop / Shibuya-kei / Contemporary J-Pop

シティポップと渋谷系の違いを徹底分析(シティポップとは?渋谷系とは?)|J-POP


日本国内でそれなりのあいだ暮らしているならば、山下達郎の「クリスマス・イブ」を一度は耳にしたことがあるだろう。また、小沢健二の featuring スチャダラパーの「今夜はブギー・バック」もそうだろう。

多くの人が、両曲ともなんとなくノレる、なんとなくお洒落だと感じるに違いない。また、両曲とも日本国外のリスナーにも届くポテンシャルを持っているということも感じるかもしれない。

1. 山下達郎「クリスマス・イブ」

2. 小沢健二 featuring スチャダラパー「今夜はブギー・バック(nice vocal)」

他方で、曲の雰囲気は若干異なる。実際、「クリスマス・イブ」はシティポップ楽曲であり、「今夜はブギー・バック」は渋谷系音楽であるとされ、そのことにたいする異論は想像できない。しかし、なぜだろうか? シティポップとは何だろうか? 渋谷系とは何だろうか? シティポップと渋谷系の違いは何だろうか?

この記事では、シティポップ楽曲の特徴と渋谷系楽曲の特徴を確認し対比することで、シティポップと渋谷系の違いを徹底的に分析していく。なお、歴史的なバックグラウンドというよりは音楽そのものに着目して、シティポップと渋谷系の違いを考えいくこととする。


シティポップの特徴

シティポップとは、(1)メロディにうねりがあり、(2)特にベースにグルーヴ感があり、(3)ドラムにリバーブがかかっていて、(4)シンセサイザーの人工的な音色が用いられていて、(5)サックスのソロやブラスのバッキングで支えられている、日本のあるいは日本インスパイアの音楽ジャンルである。

なお、これらは十分条件であり、楽曲がシティポップであるためにすべてを満たす必要はない。解説していこう。

シティポップの特徴1:メロディにうねりがある

3. 吉田美奈子「恋は流星」

シティポップ楽曲の1つめの特徴は、メロディにうねりがあるということだ。8小節、16小節、32小節など長めのフレージングやコード進行のセットをとり、音の高低差も大きい。その場その場でノることができればよしとする2020年代のメインストリームの風潮とは対照的だと言える。

シティポップの特徴2:ベースにグルーヴ感がある

4. 山下達郎「Sparkle」

シティポップ楽曲の2つめの特徴は、特にベースにグルーヴ感があるということだ。シンコペーションを強調した、ファンキーで倍音が多めの音づくりをすることが多い。

シティポップの特徴3:ドラムにリバーブがかかっている

5. 竹内まりや「Plastic Love」

シティポップ楽曲の3つめの特徴は、ドラムにリバーブがかかっているということだ。スネアドラムやトムトムの音の反響が1980年前後の雰囲気を醸し出す。シンセドラムが使用されることもままあるが、その場合ももちろんリバーブは大きい。

シティポップの特徴4:シンセサイザーの人工的な音色が用いられている

6. 大貫妙子「都会」

シティポップ楽曲の4つめの特徴は、シンセサイザーの人工的な音色が用いられているということだ。当時導入されてまもない音声合成機の音色が、高度成長期の首都圏を想起させる。どこまでも陽気であり、サイケデリック感や悲壮感がない点で、洋楽のシンセポップと異なる。

シティポップの特徴5:サックスのソロやブラスのバッキングで支えられている

7. 松原みき「真夜中のドア」

シティポップ楽曲の5つめの特徴は、サックスのソロやブラスのバッキングで支えられているということだ。ミュートつきのトランペットなど抑えめのブラス伴奏や、間奏でのサックスのソロパートが、典型的なシティポップソングには組み込まれている。


渋谷系の特徴

渋谷系とは、(1)力の抜けたボーカル、(2)軽快なギターサウンド、(3)陽気なコーラス、(4)タンバリンやハンドクラップ、(5)激しいキーボードやオルガン演奏に特徴づけられる、日本のあるいは日本インスパイアの音楽ジャンルである。

なお、これらは十分条件であり、楽曲が渋谷系であるためにすべてを満たす必要はない。解説していこう。

渋谷系の特徴1:力の抜けたボーカル

8. 小沢健二「ラブリー」

渋谷系楽曲の1つめの特徴は、力の抜けたボーカルだ。温和な男性ボーカル、あるいはチャーミングな女性ボーカルがフィーチャーされることが多い。

渋谷系の特徴2:軽快なギターサウンド

9. FLIPPER’S GUITAR「YOUNG, ALIVE, IN LOVE – 恋とマシンガン – 」

渋谷系楽曲の2つめの特徴は、軽快なギターサウンドだ。曲を通して、目立ちはするがメロディの邪魔をしないアコースティックギターやエレクトリックギターのストロークが続く。この点において、渋谷系をジャパニーズギターポップと呼ぶことができるだろう。

渋谷系の特徴3:陽気なコーラス

10. PIZZICATO FIVE「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」

渋谷系楽曲の3つめの特徴は、陽気なバッキングボーカルだ。ときに主役級の目立ち方をする、主張の強いバッキングボーカルが用いられることがしばしばある。

渋谷系の特徴4:タンバリンやハンドクラップ

11. カジヒデキ「MUSCAT」

渋谷系楽曲の4つめの特徴は、タンバリンやハンドクラップだ。ハイハットシンバルに加えて、タンバリンやハンドクラップを導入することで、リズム隊の高音域を盛り上げる。

渋谷系の特徴5:激しいキーボードやオルガン演奏

12. Cymbals「Highway Star, Speed Star」

渋谷系楽曲の5つめの特徴は、激しいキーボードやオルガン演奏だ。打楽器としてのピアノの特性を強調するようにしてキーボードやオルガンを用いてリズムを作り上げる。


シティポップと渋谷系の違い

シティポップと渋谷系の違い1:土岐麻子の楽曲を対比する

土岐麻子は、FLIPPER’S GUITARやPIZZICATO FIVEに影響された、渋谷系にカテゴライズされるバンドCymbalsのボーカリストとして活動していた。さらに、父親が山下達郎バンドのサックス奏者である土岐英史であり、Cymbals解散後EPOやトオミヨウなどと組んでネオシティポップ楽曲を発表してきた土岐は、シティポップの女王とたびたび呼ばれる。そんな、シティポップにも渋谷系にもカテゴライズされうる土岐が参加した楽曲を比べるのが手っ取り早い。

13. 土岐麻子「Gift~あなたはマドンナ~」

一方で、土岐麻子「Gift~あなたはマドンナ~」(作曲は竹内まりやと大貫妙子と共にRCA三人娘と呼ばれていたEPOによる)は、長いフレージング、倍音が多めのグルーヴィーなベース、反響の大きいトムトム音、アタックが弱いシンセサイザーからなる。それゆえこの曲はシティポップに分類される。

14. Cymbals「RALLY」

他方で、Cymbals「RALLY」(作曲は元Cymbalsで現TWEEDEESの沖井礼二による)は、土岐の力の抜けたボーカリゼーション、タンバリンこそないものの、クラッシュシンバルによる高音の補強、ベースの沖井礼二によるコーラス、激しいアタックのキーボード演奏からなる。それゆえこの曲は渋谷系に分類される。

シティポップと渋谷系の違い2:アイドルグループの楽曲を対比する

15. TWICE「SAY SOMETHING」

シティポップは2010年代後半から韓国で普及し流行し、TWICEもアルバム「Eyes wide open」に「SAY SOMETHING」を収録している。この曲は、メロディアスなフレーズ、ファンキーなベースライン、スネアドラムのエコー、目立つサックスソロによって特徴づけられる。

16. Negicco “Idol Bakari Kikanaide”

他方、渋谷系と繋がりが深い、新潟県を拠点とする実力派ご当地アイドルNegiccoの「アイドルばかり聴かないで」は、国際的な影響力を持っているPIZZICATO FIVEの小西康陽により編曲・作曲された。この曲は、リラックスした歌唱、サビ前の軽快なギターカッティング、タンバリンのサウンド、リズム感のあるアタックが強いキーボードの和音によって特徴づけられる。


現代のシティポップと渋谷系

特徴づけを振り返ろう。

「シティポップとは、(1)メロディにうねりがあり、(2)特にベースにグルーヴ感があり、(3)ドラムにリバーブがかかっていて、(4)シンセサイザーの人工的な音色が用いられていて、(5)サックスのソロやブラスのバッキングで支えられている、日本のあるいは日本インスパイアの音楽ジャンルである。」

「渋谷系とは、(1)力の抜けたボーカル、(2)軽快なギターサウンド、(3)陽気なコーラス、(4)タンバリンやハンドクラップ、(5)激しいキーボードやオルガン演奏に特徴づけられる、日本のあるいは日本インスパイアの音楽ジャンルである。」

最後に、まとめに代えて、現代におけるシティポップと渋谷系の受容について言及する。

現代のシティポップ

17. YUKIKA「Insomnia」

18. MIYU「Forbidden Game」

2020年前後において最もシティポップが受けいれられている業界のひとつがK-POP業界だろう。日本人歌手の寺本來可や竹内美宥は渡韓し、韓国でシティポップのプロジェクトに参加している。

現代の渋谷系

19. 島村卯月、本田未央、渋谷凛、神谷奈緒、北条加蓮「STORY」

20. 星見プロダクション「The Sun, Moon and Stars」

2020年前後において最も渋谷系が受けいれられている業界のひとつがアニメ業界だろう。「STORY」は音楽制作集団MONACAの田中秀和による編曲・作曲。「The Sun, Moon and Stars」は元Cymbalsで現TWEEDEESの沖井礼二による編曲・作曲。

声優の花澤香菜の渋谷系楽曲については次の記事も参照してほしい。